“東の浅草、西の新開地”と謳われた神戸新開地。明治の終わりごろには、20館以上もの劇場・映画館を抱え、神戸文化発祥の地として栄えた。そんな話も今は昔。1970年代前半にはテレビや大衆娯楽の普及で次々と映画館が閉館し、神戸の中心の座はいつしか三宮・元町に奪われた。しかし常連客たちに愛された『食文化』は、昭和の時代を経て、平成から元号が変わろうとしている現在まで脈々と受け継がれている。50年どころか100年以上続く老舗の味は、食ツウたちの胃袋を掴んで離さなかったということだろう。
に私自身が新開地ファンになったのも、『食』が大いに影響している。どの店にも「ここに行けばコレ」というスターメニューが必ずあり、新開地を案内するときには必ずと言っていいほど名物のハシゴをしてしまう。たとえば、こんなふうに。
エデンでモーニング
喫茶文化の発展した新開地には、カフェというようオシャレな店はないが、とにかく喫茶店が多い。その代表とも言える店が創業70年を超える喫茶エデン。内装も家具調度品も創業当時のままということで全国各地からレトロファンが訪れる名物喫茶だ。ここでオススメしたいのがミックスサンド。地元・大和家ベーカリーのふわふわのパンに、薄焼き卵、レタス、ハム、キュウリ、トマトが挟んであって、なかなかの食べごたえ。ボリュームがあるので、モーニングにはハーフサイズがオススメ。“ミーコ”(ミルクコーヒー)といっしょにどうぞ。
新開地にやってきたら、ハズせないのが春陽軒の豚まん。大正13年創業。看板に“元祖和風中華”とあるとおり、日本人の口に合わせた中華料理店として愛されたが、現在は豚まん専門店に。唯一無二とも言えるその豚まんの所以は、味噌味の“あん”とふわふわの甘い皮。そのまま食べても充分美味しいのだけど、特製辛子味噌とウスターソースをつけていただくのがツウ。多いときには1日5,000個が作られていて、地方からのお取り寄せも多い。おみやげにテイクアウトもできるが、アツアツのうちに店でいただく豚まんは格別。
ランチはグリル一平のオムライス
新開地のまちとともに、神戸の洋食文化の歴史をつくってきたグリル一平。三宮で中華料理店を営んでいた店主が「これからは洋食の時代」と、戦後いちばん賑わっていた新開地に移転し洋食料理店としてオープン。どの料理にも合うようにと作られた濃厚なデミグラスソースは、当時の料理人たちが試行錯誤を重ねた名脇役。グリル一平の代名詞とも言える玉子半個分で巻かれた薄焼き卵のオムライスとの相性もバツグン。オムライスに少しずつデミグラスソースを絡めながらいただくと、なんとも幸せな気分になる。
3時のおやつはアキラのホットケーキ
新開地で甘いものが食べたくなったらこちら。すっかり名物となったアキラのホットケーキは、オーダーを聞いてから粉をまぜ、銅板でじっくりゆっくりと焼かれる。焼き上がったら2枚重ねて、ひとくちサイズにカット。焦がしシロップとバターを絡めながらいただく。このホットケーキを食べるたびに思い出すのが、なんて美味しそうなんだろうと思いながら読んだ絵本『しろくまちゃんのホットケーキ』。幼き頃に思い描いていたあの味が、ここに再現されている。ホットケーキが運ばれてくるあいだのおしゃべりも、また楽しい。
シメは老舗焼鳥屋・八栄亭上店の皮で
戦火も震災も免れ、代々受け継がれてきたタレ。新開地でそういうと、知らない人はいないくらいの焼鳥店がこちら八栄亭上店。夕方5時のオープンとともに、カウンターのみの店内はすぐに満席になる。袖振り合うも多生の縁。4代目女将なおちゃんと客の掛け合いや、偶然となりあった客と客同士の会話もこの店ではお馴染み。小さな店内はまるで新開地のまちを凝縮したようで、そんなに飲まなくても気持ちよく酔えてしまう。ぷりぷりの皮から始めて、身、キモ、しんぞう、たまひも、そしてまた皮に戻ってシメるのが私の定番。
まだまだ紹介したい新開地ソウルフードはあるけれど、さすがに今日はお腹いっぱい。続きを書く機会があれば、第2弾で。