島の仕事とくらしvol.2 〜125年前の地域活性化・お線香のまちへ〜

お線香の生産量日本一の淡路島に移り住んで5年。初めてのお線香工場見学は125年前の地域のしごとづくりとの出会いとなりました。淡路市暮らしナビゲーターの堺野菜穂子がご案内します。

お香の歴史は淡路島から始まった?

淡路市の瀬戸内に面した一宮地区は日本最古の神社「伊弉諾神宮」があることで知られていますが、実は淡路島が日本国内の生産量の7割を占めるお線香の工場が多くある「お線香のまち」でもあります。
古くは推古天皇の時代に淡路島に香木が流れ着いたと『日本書紀』に記されていますが、実際に淡路島で線香の生産が始まったのは江戸時代。なぜこの地域がお線香の一大生産地になったのかは後ほどご紹介するとして、今回伺ったのは淡路市多賀の株式会社薫寿堂本社です。

株式会社薫寿堂本社

では、さっそくお線香づくりの工程をみていきましょう!
線香の主原料は椨(たぶ)というクスノキ科の常緑高木。椨の樹皮を粉末にしたものが線香を固める糊材に用いられるそうです。この椨をベースに香料を加えて練り上げます。

株式会社薫寿堂本社

まずは「混錬」という原材料を練る工程から。粉状の椨と香りの原料を調合して、約70度のお湯を入れて粘土状に練っていきます。

線香の原料は800kgのドラム2個でグルグルと攪拌されて粘土状になるまで練り上げられます。この工程で香料が加えられるので、部屋には香料のいい匂いが。匂いが混ざらないように、この工場で製造する線香は1日1種類のみにしているそうです。

海外での販売についてお聞きしたところ、フランスなどに向けての「ルームフレグランス」としてのお香の販売が2割、台湾や上海などに向けての仏前用のお線香が8割だそう。仏前用は一度使って気に入るとリピートし続ける人が多いのだとか。

お線香づくり

粘土状になったら10kgほどの円柱状の塊にして、ラップに包んで一晩ねかせて、塊に含まれた空気を抜く工程を経てから、成形の工程へ向かいます。

お線香づくり

スガネという小さな穴のあいた型に通すと、まっすぐな麺状になって板の上に出てきます。今は機械ですが、昔は人の力で押し出していたのでしょうね。

スパン!と切り揃えられ、お行儀よく板の上に並んで出てくるお線香。
この時点で材料の温度は40度ほどあるそうで、切り落とされた材料は柔らかいうちに機械に戻され、無駄なく再度成形されます。
成形された線香は、板の上にのせたまま常温で乾燥させたのち、乾燥室に入れて、温度30℃、湿度40%で約1日じっくりと乾燥させます。

50歳を過ぎての転職が、日本一の生産地のはじまり

昔ながらのお線香工場が多く集まる「江井」という地域では、4人にひとりが線香作りに携わっています。島の西側にあり風の強いこの地域では、その風がお線香を乾燥させるのに適していたのですね。通りには当時の面影を残す独特の窓(2枚の板の重なりを調節して、建物に入る風の量を調整するようになっている)を見ることができます。

江井はもともと海運業で栄えていましたが、季節風の影響で船が海に出ることができない冬場は仕事がなく、出稼ぎにでていたそう。
江戸時代に田中辰造さんという染物屋さんが、地域の冬場の家内工業として線香づくりができないかと考え、当時線香づくりが盛んだった大阪の堺へ技術を学びに行きました。その後、数人の職人とともに江井に戻り、線香づくりを始めました。辰造さんが染物屋の家業を捨てて線香づくりを習得したのは50歳を過ぎてからだとか。その行動力と故郷への想いが、今の日本を代表する線香生産地へと続いているのですね。

人の手でないとできないこと

さて、工場見学はまだ続きます。数日の工程を経て乾燥が終わったお線香は、乾燥時に曲がったり折れたりした線香を取り除く検品作業に移ります。これを「板上げ」といいます。

手際よく、ヘラで線香をより分けていく手元は見ていて飽きません。
乾燥までの工程はほとんど機械化されていますが、検品作業から箱詰めまでは全て人の手によって行われます。これまで何度も機械化を試したそうですが、機械では大量の線香の中から曲がったり折れたりしているものを発見することはできても、それを取り除くことはできないのだとか。
箱詰めも人の手で。ちなみに、よく紙で束ねられたお線香を見かけますが、お線香を束ねる作業も機械化できず、現在でも手作業で行われています。まだまだ人の手でないとできないことがあるというのは、ちょっとホッとします。

『日本書紀』の時代から人々は「香り」を感じ、大切にしてきたことも今回の工場見学で知り、暮らしと香りの関係について改めて考える時間になりました。

薫寿堂さんでは工場見学だけでなく、お香づくり体験もできます。自分だけの香りを調合できるそうなので、ぜひ体験してみてくださいね。

株式会社薫寿堂 https://www.kunjudo.co.jp/try/

この暮らし体験のナビゲーターについて

堺野菜穂子

神奈川県横浜市出身。兵庫県宝塚市を経て、5年前から淡路市在住。
ノマド村のショップ「キクハナ 」店主。暮らしと働くを近くに!をテーマにまずは自分の暮らしを実践中。

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